企業のIR部門と セルサイド・バイサイドが つながるサイト

「はじめてのコーポレート・ガバナンスコードとESG対応」セミナーレポート Vol.4 ESGへの取り組み方編

「はじめてのコーポレート・ガバナンスコードとESG対応」セミナーレポート Vol.4 ESGへの取り組み方編

2021年12月16日に、「はじめてのコーポレート・ガバナンスコードとESG対応」をテーマにセミナーを開催しました。
2021年はコーポレート・ガバナンスコードの改訂、2022年は東証の市場再編と大きな変化が続きます。
今回は、元楽天IR部長で『楽天IR戦記』著者の市川 祐子氏に、「コーポレート・ガバナンスは何のため行うのか?」、「機関投資家が求めるESGとはどのようなものか?」、「ESGはいつから取り組むのが良いのか?」といった内容をお話しいただきました。当日の参加者より「基礎的なお話から始まり、理解が進みました。」などの前向きな感想が多く寄せられました。
第4回目はESGへの取り組み方をお送りします。

ESGへの取り組みについて、具体的にどう始めたら良いかを理解していただくために、まずはESG投資の手法からお話ししたいと思います。ESG投資には色々なやり方がありますが、今回はまず3つを覚えていただきます。

①ESGインテグレーション

従来の投資分析にESG要素を組み合わせるパターン

②ベスト・イン・クラス

ESGが良い会社を積極的に投資するパターン

③インパクト投資

ポジティブな影響だけを特にピックアップし、そのポジティブ影響度を測定し報告するパターン

世界のESG投資額35兆ドルのうち、ESGインテグレーションが25兆ドルと一番多く占めています。ベスト・イン・クラスとインパクト投資は真逆のパターンであり、共にまだ少額です。

それでは実際にどの様なものがあるか、投信を使った例で説明したいと思います。
1つ目は、アクティブ型ESG投信の事例なのですが、野村日本株ESG投資の「世の中をよくする企業ファンド」です。投資プロセスは目論見書に書いてありますので見てみましょう。日本の上場している株式で(野村AMが)ESGスコアを付与している銘柄が約300~400あります。野村はどうスコアを付与しているかというと、外部のESG評価機関のデータも見つつ、自社でESGアナリストを採用・強化し、独自のスコアを付与した中から、ESGの取り組みと一定以上の収益力の持続性、この2つを考慮して候補を絞ります。さらにバリュエーションや流動性なども考えてポートフォリオを40銘柄にまで絞っています。この手法はESGインテグレーションと思われます。その結果として、キーエンスや信越化学やソニーグループなどが上位を占めています。時価総額が大きいこともあるのですが、例えば、キーエンスは生産性向上に寄与しているということが理由の一つとして挙げられていました。

2つ目はインパクト投資の事例です。ベイリー・ギフォードのインパクト投資(愛称:ポジティブチェンジ)、こちらは世界株式投信なのですが、まず投資アイデアを決めるそうです。例えば医療やEVなど。インパクトテーマの実現に貢献しているか、そして成長が期待できるか、さらにはファンダメンタル分析だけではなくインパクトを分析し、きちんとポジティブインパクトを残したか、という測定と報告をするということが重要といえます。結果としてモデルナやテスラが上位に来ています。

続いて、インデックス型ESG投信の事例です。アセットマネジメントOneの「One ETF ESG」というものでFTSE Blossom Japan Indexに連動する投資成果を目指した運用をしています。FTSE JAPAN ALL CAP INDEXには1390銘柄あり、その中からESGが優れた企業を選んでベスト・イン・クラス方式で選びセクターで中立化した200社を指数化し、アセットマネジメントOneがこの指数と完全に連動するようにした結果、トヨタ、ソニー、リクルート、ダイキン、日立が上位に来ています。インデックスの話が出たので、主なESGスコアやインデックスについてお話しすると、スライドの41ページにESGスコアの評価機関と対象企業を記載しています。

DJSI Asia Pacificはとても名誉でグローバルに有名な評価機関です。MSCIやFTSEはESGインデックスが2種類あります。FTSEは先ほど述べた通り約1400社あり、その中からピックアップします。S&PカーボンエフィシエントはTOPIXすべてからティルト型で選ぶ形になっています。MSCI、FTSE、S&Pカーボンエフィシエントの3つの機関は、GPIFの日本株インデックスに採用されています。他には時価総額が約500億~1000億円の間であればグロース企業でマザーズもSustainalyticsのスコアリングに入っています。東洋経済とBloombergは基本的に(上場企業)全部ですね。

海外投資家はSustainalyticsから上(に掲載した指標、DJSI、MSCI、FTSE、Sustainalytics)を見ています。そして開示基準は別に存在し、投資家がよく見ているのはSASBとTCFDです。なぜならこの2つは財務に影響があるものを選んでいるからです。他にIIRCは老舗ですが、SASBとの合併を発表しています。

TCFDについて少し説明をします。プライムでも対応が必要になり、有報にTCFDの記載を求める議論が金融庁で行われたと日経に掲載されていました。具体的には、TCFDには4つの柱(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)がありますが、このうちガバナンスとリスク管理のみ有報と正式な政府の財務報告書に入れるようにという話があり、IFRSで2022年の夏ぐらいに指針を出そうという流れになっています。スライド42ページの青字の部分が定量情報を求められるところですが、ガバナンスとリスク管理は定量情報がなく、つまりは定性情報だけがまず義務化になると思われます。ただプライムはもう全部(4つ)取り入れたほうがいいのではないかという話が出ていました。

続いて、ゼロから始めるESG開示というテーマです。まだ取り組んでいない会社はどうしたらいいか、まずはターゲット(誰に)を決めましょう。投資家かステークホルダーか。それから「何を」開示するのかという項目のピックアップは、先ほどのような評価機関の評価項目をご参照ください。また、同業他社(同業ではなくても)の開示を参照することで項目を洗い出し、情報を収集することもできます。その中から事業と関連性が薄いものを排除し、情報整理をして、まずサスティナビリティサイトを作ってみてください。それから統合報告書的なものを作りましょう。(この段階では)寄せ集めなので統合されているかは疑問ですが、まとめて掲載しないと(投資家や格付機関に)見つけてもらえません。たとえばSustainalyticsがレポートを出した場合も開示されてなかった、または見つけられなかったので取り組んでいないとみなされることが頻発しているので、まとめて作るということが重要です。

ただしそれでは東証の期待しているサスティナビリティとは少し遠くて、理想のサスティナビリティ経営は、トップダウンで、取締役会で、サスティナビリティ基本方針を策定してほしいということです。まずは将来の市場環境や世界を想像してください。ゼロエミッションが実現して(気温が)二度上昇ですむのか、あるいはもっと激しくなるのか、人口はどうなるのか、デジタル化はどうするのか、などです。それに自社の理念も踏まえて長期戦略を策定してください。それから経営目標と事業ポートフォリオ事業計画を作ってください。加えてサスティナビリティマップやサスティナビリティKPIを作り、できれば役員報酬に入れてください。それを統合報告として公開することが理想の姿です。この様な会社があるのかと思われるかもしれませんが、日本には結構存在します。今、一橋大学で社会人向けの講座に非常勤講師として参加していますが、そこでは、例えば商社の経営戦略ではこの方法が基本です。小売やメーカーの大手でもこの様な形で長期戦略を決めているところが多くあります。一つ紹介すると、キリンホールディングスが日本取締役会主催のコーポレートガバナンスオブザイヤーで2020年大賞を受賞しました。先日常務の方のプレゼンを聞く機会がありましたが、きちんと統合されたサスティナビリティ経営をやられております。2代ぐらい前の社長が、マイケル・ポーターによって提唱された「CSV(共通価値の創造)」をやりたいと強く思い、前々回くらいからの中計でやり始め、今のKV2027(7年間の長期構想)で「食から医療にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業を目指す」と掲げています。中期事業計画は3年間です。CSV経営がきちんとイノベーションと売上利益成長に貢献していることが社内で浸透されており、浸透させるためには事業別のCSVコミットメントというのが定義されています。そして役員報酬にはROICやEPSのほかにCSVコミットメント成果と従業員エンゲージメントが反映されているそうです。さらに言えば、去年グリーンボンドが発行され、これは評価機関からきちんとお墨付きをもらわないといけないものですが、BNPパリバの方が言うには、瞬間蒸発(あっという間に売れた)だったそうです。本当にマーケットはこういうもの(サステイナブル債)を求めている、と言っていました。

続いて、市場別・時価総額別のESG対応の進め方です。誰に読んでもらうか、そしてキリンホールディングスの様なサスティナビリティ経営をいつ・どう目指したらいいか。プライム企業については、独立性の高い取締役会やサスティナビリティをコードにしたがって行うという覚悟をもって選択されたと思うので、粛々と進めていってください。もちろん、時価総額が5000億や1兆円であれば、しっかりサスティナビリティ経営をしていってほしいです。ほかの市場(スタンダード、グロース)でも5000億円近くになってくるとプライム並の意識をした方が良いと思います。

スタンダード市場はグローバル投資家向けではないので、一定程度の独立性のある取締役会とサスティナビリティも事業には必要であることは皆さんお分かりだと思いますので、事業やステークホルダーに必要なものをしっかりと決めて取り組んでほしいと思います。グロース企業はとにかくグロースしてください。300億円ぐらいの時価総額になるまでは事業成長した方がいいと思います。ただそれも理念や社会課題に基づいたものを決めてやるべきだと思います。なぜこの300億円で切っているかというと、FTSEが約1400社あり、時価総額上位1400社が350億円くらいということと、(この時価総額が)海外投資家が入ってくる境目なので、300億円に至るまではまず事業成長をしっかり進めてください。ただサスティナビリティの開示については、時間もかかるので少し手をつけておいたほうが良いと思います。

勉強するには、東証のESGナレッジハブがおすすめです。事例集もあり、先ほどの評価機関がどういうものか、開示基準なども詳しく書いてあります。TCFDにはTCFDガイダンスや環境省が出しているTCFDを活用した経営戦略のススメというものがありますので、これらをもっと勉強してみてください。

最後になりますが、サスティナビリティとはあなたの資産、みんなの資産、年金や投資も含めてどちらに向かわせるかということです。企業と投資家の対話や開示により、うまく歯車が回れば、社会課題の解決にもお金が向きリスクも回避できます。みなさんも、これからずっと豊かな社会になるためのサステナビリティ投資だ、というふうに考えていただけたらと思います。そして結果として、みなさんの資産形成ができる、ということだと私は考えています。

本セミナー記事についてのお問い合わせは support@msetsu.com へご連絡ください。