「IR面談 5W1H」セミナーレポート Vol.1 IR訪問に必要な5W1H / Why編
2021年6月4日に、「IR面談の5W1H」としてIR担当者向けの学べるセミナーを開催しました。IR担当者が日々感じている機関投資家との対話前後の課題として「投資家は何を考えているのか?」「何を求めているのか?」「何を聞いていいのか?」など様々な声を伺います。そこで本セミナーでは、アイスタイル CFO菅原 敬氏とアセットマネジメントOneの岩谷 渉平氏、そしてサプライズゲストとして海外ヘッジファンドのパートナーX氏をお迎えして「機関投資家がIR面談前後で何を考えているのか?」について、対談形式でお送りしました。
当日の参加者様より「普段なかなか聞けない機関投資家のリアルな話を聞けた。」などの感想が多く寄せられました。IR担当者が機関投資家の考えを知ることで「双方のギャップ」を埋め、「事前準備の質」、そして「対話の質」の向上に貢献できる内容を3回に渡ってお届けします。
第1回は、投資家はなぜ面談するのか、なぜ面談をやめるのか、「Why」についてお送りします。
菅原氏
私は資本市場の経験がないCFOで、かつ上場は初めての経験ですので、上場するまでは資本市場のことを全く知りませんでした。
弊社は前回の中期経営計画をかなり外しました。コロナの感染が流行する前から株価も数分の1に下がり、ようやくコロナ禍でも業績を回復させている最中でした。それでも時価総額はまだ400億円前後です。
セルサイドのアナリストカバレッジも、アナリスト人口が減っているという環境もあり、以前は9社ぐらいカバレッジがあったのですが現在は3社になっています。
このような状況を経験し、上場して10年になりますが、IR活動は簡単ではないと実感しています。先に申した通り、私自身が資本市場のプロフェッショナルの経験がないということで、日々困難に直面しながらも解決策を探りながら対応してきました。それでもまだわからないことだらけで、普段から仲良くさせていただいているセルサイド・バイサイドの方々に様々な機会をいただきながら教えてもらっています。その中で、今日は普段から相談に乗っていただいているお2人に登壇いただくことになりました。
皆様は日々、深く検討しながら手探りでIR実務をやられていると思いますが、そんな皆様が機関投資家に聞きたい内容を代弁していきたいと思います。
ではまず、岩谷さんのご紹介です。私が上場する前に、個人的に仲良くしていた当時の東京エレクトロンのIR部長から、上場後のIRについて勉強したいと相談した時に紹介いただいたのが岩谷さんです。とても長くお付き合いさせてもらっています。
もう1人はニューヨークのヘッジファンドのXさんです。Xさんは、東京でもそうですが、私がニューヨークでIR活動をするときは必ずお会いして、IR面談以外でも時間を作っていただき勉強させていただいています。
それでは本題に入っていきます。「IR面談の5W1H」ということで、我々IR担当者の共通の悩みとして、機関投資家の皆さんは何を考えているのか、何を求めているのか、という事を日々考えていると思います。そして機関投資家によって、質問のアングルも違うし、運用されているファンドの性質も違うので、個別にしっかりと対応していく必要があります。
しかし、いざ面談になると、IR側は質問される立場だから質問しちゃいけないのかな…みたいな雰囲気も感じとってしまうことがあります。そんな悩みを少しでも解消できるようにお2人に伺っていきたいと思います。
Why: 対話の機会を積極的にアプローチすることは「あり」
菅原氏
それでは「Why」からお話していきます。
現在、東証では約3800社の上場会社があります。時価総額は、おそらく10億円程度から数十兆円まで幅広くあり、機関投資家の皆さんは保有、あるいは助言するファンドの戦略に合わせて面談する相手を決めていると思いますが、我々IR側としては多くの機関投資家とお会いしたいと考えていると思います。
これは株を保有していようがいまいが、機関投資家の投資ユニバース※1はそれぞれ違いますから、そこもわからない状況で、どうしたら多くの機関投資家に会えるのかという疑問を持ちます。そこで、岩谷さんとXさんがそれぞれ、お会いされる企業をどのように選んでいるのかお伺いしたいと思います。
※1 投資対象とする銘柄群(母集団)
岩谷氏
弊社は、アナリストやファンドマネージャーが合計数十名在籍しており、年間かなりの回数の上場企業との接点を持っています。
それぞれのアナリスト・ファンドマネージャーには流儀があって、ユニバースも投資対象も違います。面談する時には、あらかじめ解像度を高めておくのが良いです。例えば、TOPIXがベンチマークで大型中心に運用している人なのか、スモール・グロースをユニバースにしている人なのか、投資対象の時価総額上限は何億円程度なのか、など。個々の特徴を確認することをおすすめします。
菅原氏
例えばうちの会社は、IR支援会社のツールを入れていますが、プリセットされた投資家情報があるので、例えば、アセットマネジメントOneの岩谷さんが運用している保有ファンドまでは分かるのですが、自社のユニバースに合致した投資家を逆引きで探すのは困難です。例えば、「アセットマネジメントOneの岩谷さんはネット、スモールキャップ、コンシューマあたりを投資されているらしい」という情報が他社から教えてもらったときに、どうしたら岩谷さんが自社に気づいてくれるのでしょうか。岩谷さんはお会いする会社をどのように選択しているのでしょうか。
岩谷氏
「少しお話しませんか」という連絡は有りです。
菅原氏
こちらから、「お話しましょう」と言えばいいですか。
岩谷氏
そうですね。
菅原氏
直接連絡先を知らない場合は、証券会社のアナリストか、カバレッジバンカー※2か、コーポレートアクセスの人に岩谷さんに会いたい旨を伝えればいいのですよね。
※2 業界ごとに顧客を担当する投資銀行部門のバンカー
岩谷氏
そのとおりです。
投資ユニバースのマッチ、そして伸び高が大きい可能性がある企業は機関投資家からコンタクトを取ることも。
菅原氏
逆の観点になりますが、岩谷さんから会いたい人を発掘する事もあるのですか。
岩谷氏
はい、あります。この場合は、窓口がない時は四季報で代表にかけてダイレクトに依頼することもあります。
菅原氏
それはやはり自分のユニバースと合っていそうで、興味があるからでしょうか。
岩谷氏
そうですね、大抵投資家の皆さんはそうだと思います。
TOPIXの中でインデックスのウェイトが大きく、それぞれのインデックスベンチマークの中で存在感が大きくて、何もしなくても自動的にルーチンリセットしてもらえるというものもあるので、そうじゃない場合は自らプロアクティブに申し込みをするの有りだと思います。
菅原氏
次にXさんにお伺いしたいのですが、ニューヨークベースだとIRのカンファレンス、あるいはノンディール※3、または月のロードショーのセットが多いと思いますが、Xさん自らズームやカンファレンスコールで会いたい人を探しに行く事はありますか。
※3 海外上場時や株式の売り出し以外の状況での海外投資家とのミーティングを行うこと
X氏
ありますね。背景として、我々のカバレッジのやり方について説明したいからです。機関投資家ごとにプレースタイルがあります。弊社は私含めて2人で日本企業を見ていますが、そもそもカバーするセクターを決めてその中だけ見ています。セクター外はほとんど手が回らないので見られないのが現状です。私が選ぶ場合は、まずそのセクター内であることが重要ではある一方で、たまたま同じ会場にいるからお話することもあります。すでにフォローしている会社でしたら、まず話に行きます。知らない場合でも、例えばですが、私は中国や韓国もたまに見ていまして、日本のテックセクターですと海外と似たようなビジネスモデルで、今後絶対伸びる可能性がある面白そうなビジネスモデルのところはお話します。逆に、流動性があまり高くないとそもそも投資できないので、そういったところは残念ながら話したくても話せない事もあります。
他の掘り下げの手段ですが、セルサイドを仲介するのも1つの手だと思います。私達は毎朝大量のメールが届いているので1つ1つメールを丁寧に読みこめないのが事実です。なのでセルサイドの方々を上手に活用してプッシュすると面談が増えるのではないでしょうか。
菅原氏
Xさんのセクターとしては、ユニバースとしては基本的にはTMT※4やテックセクターだと思いますが、日本株だと何社ぐらい時価総額と流動性で投資できるところ、できないところがあるのでしょうか。弊社は、まだユニバースに入れてないのはわかっていますが、例えば1千億以上でテックセクターでしたら数百ありますよね。
※4 T(テクノロジー)、M(メディア)、T(テレコム)
X氏
そうですね。コンシューマも完全にフォローするのは多分50社でも精一杯です。その他は片目で見ていて、面白そうなことが起きそうだと思ったら面談をしに行くイメージです。テックの中でも、toBとtoCで分けているので私はtoCのビジネスモデルを主に見てます。他のメンバーとは見る場所を分けています。
菅原氏
流動性と時価総額で入れる、入れないという線引きはあるということですね。それでも弊社はユニバースに入ってないですが会ってくださりますよね。それは何らかの期待やアンバランスさ、そして単なる投資家と企業の関係ではない部分もあるから会ってくれてるのかなと思っています。つまり、ユニバース以外でもフォローはする会社はあるということですよね。
X氏
もちろんです。アイスタイルさんの話にはなりますが、伸びるタイミングに伸び高が大きい可能性があることと、菅原さんが業界に詳しいので業界に関わるディスカッションをしたい時にお会いすることはあります。その中でも、アイスタイルさんのポジショニングを考慮しておいて、興味深いタイミングを逃さないようにチェックしています。
菅原氏
お会いする時は、いくつかキークエスチョンを用意してくださいますよね。Xさんは私とのミーティングで聞きたい質問をいくつか毎回ご用意いただいている気がしています。
X氏
お察しの通りです。また、最初にお会いする会社には正直に「資料読みましたけどわかんないので説明してください」とお伝えします。
第1回では、菅機関投資家が面談する理由や意義についてお伺いしました。次回は面談するタイミング、「When」についてお送りします。
株式会社アイスタイルに1999年の創業時より参画。
CTOや複数子会社の代表取締役を経て、現在は取締役兼CFOを務めるほか、グループ海外全事業の事業責任者として海外複数子会社の代表取締役も兼任。
また、2016年にはベンチャーキャピタル事業を行うiSGSインベントメントワークスを設立し、取締役 代表パートナーに就任(現任)。
その他、Fringe81株式会社や、株式会社Tsumug、株式会社オープンエイトの社外取締役も務める。
1996年より、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)及び、アーサー・D・リトル(ジャパン)にて、計約9年間にわたり戦略コンサルタント・テクノロジーコンサルタントとして活動。
北米金融専門誌「Institutional Investor」が発表した「The 2017 All-Japan Executive Team」のインターネットセクター「Best CFO部門」において第3位受賞。
英国国立ブリストル大学経営修士(MBA)修了。経済同友会会員(企業経営委員会 2020年度副会長)、日本ベンチャーキャピタル協会委員。
アセットマネジメントOne株式会社 運用本部 株式運用グループ 国内株式担当ファンドマネジャー。
2020年Lipper Fund Awards From Refinitiv 最優秀ファンド、R&I ファンド大賞優秀ファンド賞(投資信託10年/国内中小型株式部門)他。
経済産業省「バイオベンチャーと投資家の対話促進研究会」委員等。
東京大学経済学部卒業。