2021年4月2日に、「株式市場で活躍するIR担当者になるための成功戦略」として学べるセミナーを開催いたしました。
Vol.2 機関投資家や株主と対話をする際の事前準備やその活用方法
Vol.3 ESG対応について
第4回は、IRの目標設定、IR担当者のキャリア形成についてお伝えしていきます。
IR の目標設定はプロセス目標とし、1つずつ着実に完了できるものが適している
最適な目標(KPI)は、具体的にあげると、面談回数なのか?、株価なのか?、出来高なのか?、アナリストレポート数なのか?、、、となりますよね。D社では、元々、成果目標としてKPIをおいていたわけではありませんでした。定量的な目標を立てるには、これらの指標にはあまりに多くの外的要因(ビジネスモデルや競合の状況など)に影響され、変動要因が多いと考えております。そのため、定量的なKPI目標ではなくて「プロセス評価主体」がふさわしいと私は個人的に考えています。つまり、定性的な最終目標を決めて、そのために何をすべきかという洗い出しを行い、最適な仕組み(プロセス)を構築することがまずは重要です。その上で、プライオリティを決めてひとつひとつ着実に完了させて、完了したものを順次評価する方法が適していると思います。
D社での具体的な目標の立て方ですが、まずは「入社した時に感じた課題」を挙げました。1つ目は株価のボラティリティが高いこと、2つ目は対話の相手となる中長期目線の主要株主がいないこと、3つ目は外国人投資家の裾野が十分ではないことです。目標としては、「中長期目線の機関投資家をコアにした株主構成への移行すること」、「外国人投資家層を拡大し、機関投機家による保有やショートカバーを減少させること」を掲げました。「そのために何をするか?」を各種プロセス目標に落とし込み、取り組んで行きました。
実際の取り組みは、プライオリティを決めて実施する事が重要です。まずは「斧を研ぐこと」、つまり「IRサイトに情報を加え充実させること」、「英語サイトの質向上」「投資家対応方法の見直し」などを細項目に落とし込み着実に行う事ことで最適なアウトプットを模索しました。
社内外の信頼される存在になることを目指す
最後に、IR担当者のキャリア形成についてお話しします。IRは上場企業の責務です。株式市場との対話はCEO、CFOを含む経営幹部、取締役の重要な仕事の1つであり、IR担当部門だけの業務ではありません。そのような建付けの中、IRオフィサーはCEOまたはCFOの代弁者ともなっています。
IRの責任者または担当者の資質は、「鳥の目・虫の目」を併せ持つことだと考えています。普段は資料作成などを通じて、細部に至るまで事業を理解して説明できるようになる「虫の目」と、CEOなど経営陣を支えつつ、時には自社の代表として、株主に経営戦略を語る「鳥の目」。これは社外の株式市場と触れ合うことで養われます。この2つをしっかり捉えることで、俯瞰力が養われます。
俯瞰力はIR担当者にとって、求められている非常に素晴らしい能力ですが、自然に備わるわけではなく努力が必要です。私自身も俯瞰力を養うため、常に努力しています。まず、日本や世界の経済の動きを常にアップデートしています。社外や株式市場側に立ち、ディスカッションをすることで、多面的に物事を捉える力が身につきます。社内外で複数の視点を持つ人や発想の展開力を持つ人と、ディスカッションを行い、ネットワーク構築を行います。ネットワークの構築は、まずは深い関係性を持つグループ、そして広く浅いグループの2つに分けて構築すると、それぞれで必要な関係性を築きやすくなります。そしてメンターを持つ事もお勧めします。
IR担当は経営で重要な柱に深く関わることができる素晴らしいポジション
IR担当者のカテゴリーは2種類あると考えております。1つ目はジョブローテーションです。社内の様々な部署を経験して、最終的には経営陣の1人として活躍することを目指す人です。もう1つは、IRプロフェッショナル型として専任者となることです。株式市場の一員として、その論理を理解して経営者や株主および関係者と同じ言葉で株式市場とコミュニケーションできる人です。
みんせつ様によると、この2つの割合は大体2対1とのことです。
IRプロフェッショナル型が少ないのは、キャリアパスの形成が確立されていなかったことが要因だと考えます。私のキャリアでお話しますと、Y社で17年間IR担当をした後、社長室長を任されました。社長室長では、それまで学んできたガバナンスやグローバルコミュニケーション、そしてステークホルダーに関する理解が非常に役立ちました。そこで初めて、社長室長とのシナジーがあると実感しました。
その後は、社外取締役を目指しました。きっかけの一つは、みんせつさんのセミナーにも登壇されている、皆さんご存知の元楽天のIR責任者だった市川祐子さん。その頃は個人的にお会いしたことは無かったのですが、市川さんが社外取締役に就任なさった話を風の噂で聞き、社外取締役という選択肢がキャリアパスにあることを感じました。尚、市川さんとは今では大変親しくさせて頂いており、色々勉強させて頂いております。
そもそも、皆さんがご存じの通り、2015年に発表された「コーポレートガバナンスコード」においては、上場会社の責務として「経営陣幹部・取締役が株主との対話を行うこと」が挙げられています。IR責任者・担当者は、この大切な責務をサポートする重要な役割を担っています。
その中で社外取締役の役割ですが、経営の監督や、多面的視点を提供すること、つまり社内常識にとらわれないように意識することが重要だと言われています。具体的に言うと、中長期的なESGやSDGsを含む持続可能性をベースに、全社レベルの全体最適といった視点を持つことが重要だと考えます。
業務執行から独立した立場で発言や行動を行うことで、経営陣との信頼関係を築いていくことが重要だと考えております。会社と経営陣・株主との利益相反の監督ということで、俯瞰力を持ち合わせることが大事になってきます。(参考: 経産省「社外取締役の在り方に関する実務指針」)
これは、IR担当者の目指すべきひとつの姿だと思います。市川さんに続き、私も社外取締役に就任いたしましたが、市川さんから「コーポレートガバナンスの権威の方から、『資本市場を理解してる人が社外取締役として取締役会で活躍するのは良いことですね』とのお言葉をいただいた」とお聞きしており、改めてこれはIRの経験が生きるポジションだと感じました。
最後に、皆さんへのメッセージです。皆さんには、誇りを持って高いモチベーションを維持しつつ、今の業務に真剣にそして誠実に取り組んで頂きたいと思います。IRで培った能力や信頼は、必ず今後のキャリアに生かされていきます。是非、引き続き一緒に頑張っていきましょう!
ご興味のあるIR・SR関係者の方々はお問い合わせir@msetsu.com (担当:峰岸)よりご連絡ください。