2021年4月2日に、「株式市場で活躍するIR担当者になるための成功戦略」として学べるセミナーを開催いたしました。
第2回は、機関投資家や株主と対話をする際の事前準備やその活用方法についてお伺いしました。
相手を知るための努力は必要
実際に機関投資家や株主と対話をする際の事前準備ですが、事前にお互いの理解が深まっていると、質の高い対話ができます。そこで重要になってくるのが、「その準備に注力しているかどうか」という点です。中には外国人投資家が「さぁ僕に何を話してくれるんだい」という感じで、ゼロから始める面談もありますが、面談時間は1時間です。さらに、通訳を入れると実質30分程度です。その30分で、ゼロから会社のビジネスモデルを理解してもらう難易度の高さは言うまでもありません。ですので、事前にある程度の情報提供・情報収集を行って知識を深め、その上で「対話するステージ」に持っていく努力がとても大事になってきます。
もちろん機関投資家をコントロールすることはできません。資料を事前に渡しても読んできてくれないこともあると思いますが、最大限努力することは大切です。一方、企業側から山のように資料を渡しても、機関投資家が1社に割ける時間は限られていますので、必読部分をコンパクトにお伝えするのが良いと思います。先ほどお話しした第三者レポートも役に立つと思います。
同時に、自分(会社側)が相手(投資家)を事前に知っておくことも重要です。機関投資家の投資スタイルや他企業の株式保有状況などを、投資家データベースをきちんと活用して必ず準備しましょう。
インタラクティブな対話を心がける
私は対話には3つのステップがあると思っています。1つ目は、質問に単発で回答する段階。機関投資家の頭の中にイメージがあり、そのイメージに沿った質問をしてくるので、それに対して対応する、というものです。2つ目は、会社側から一方的に自社の説明をする段階。3つ目がインタラクティブに対話するという段階です。
具体的なステップアップについてお話していきます。初対面の機関投資家に先方の希望で会った時、自私はよく「How did you discover us?」と質問していました。日本の上場企業が4,000社ある中で、その機関投資家がどうやって自社に辿り着いたのかを質問することは、1つのインタラクティブな対話だと思っています。自社の強みや課題を機関投資家がどう捉えているか質問するのも良い対話だと思います。
1つ目のステップにあるように、機関投資家は頭の中に明確な問いがあり、それに沿った質問をしてきます。例えば、全社の利益率の今後の方向性を知りたいと思っている時、彼らは「御社にはAとBという事業があるが、売上高と利益のブレークダウンはどうなのか」とか、「AとBの今までの成長率は?今後はどうなりそうですか?」というような質問をしてきます。「この投資家は全体の営業利益の今後の変化について聴きたいんだな」と想像できるのであれば、まずその理解が正しいのか聞いてみると良いです。もし違う場合でも、最終的に何が知りたいのか説明してくれることが多くあります。その「何が知りたいか」については、まずはストレートに回答するのが良いと思います。例えば、「全社の利益率は緩やかではありますが上昇していくと考えています」など。そしてその回答の背景について「なぜならば・・・」というようにブレークダウンしながら話すことで、断片的な対話ではなく、本質的な課題についての対話になると思います。
外国人投資家と対話する場合、背景となるカルチャーや自国での産業構造が違うことは常に念頭に置くべきです。D社在籍時に外国人投資家とのディスカッションを通じて感じたのは、雇用体系の差異です。日本で言うと正規雇用は終身雇用がベースですが、外国によっては正規でも有期の場合があります。そのため、「あなたの国ではこういう産業についてはどうでしょうか。」というようなディスカッションを入れるだけで、ギャップを埋めるとっかかりになると思います。
面談の最後に、ディスカッションに対して投資家の感想を聞くことも重要です。また、私自身はセルサイドのアナリストと、バリュエーションについてよくディスカッションをしました。バリュエーションと言っても自社の目標株価の話ではありません。例えばY社ですと、 DCFでバリュエーションを計算することが多いのですが、D社に行くとPERが多かったので「なんでPERを使っているのでしょうか」とか、「DCFで計算するにはどういった情報が必要なんでしょうか」、またPERの場合には「なぜプレミアムがついてるのでしょうか」「競合と比べてこのディスカウントが発生してる理由はなんでしょうか」等をセルサイドアナリストに聞いてみてディスカッションするのもお互いの理解を深める対話になり得ると思っています。
社内共有をすることで信頼関係が強固に
機関投資家との対話を通じて感想や意見、アドバイス等のフィードバックをもらうと思いますが、皆さんはその内容を経営陣や事業部門幹部に報告していますか?そして、取締役会でのディスカッションに活用していますか?投資家の助言は非常に有用に経営に活用できますので、ぜひ取り組んでいただきたいです。
D社退職時に、機関投資家に挨拶周りをした際に「聞いてくれる姿勢があるため、苦言を含めたアドバイスを伝える気になりました」「浜辺さんに話したことは必ず経営陣に伝わるという安心感がありました」と言われました。誠意を持って聞く姿勢を見せて、もらったご意見やアドバイスを上層部に伝えることで、株主や機関投資家との関係がさらに良くなっていきます。
皆さんは、IR部門が機関投資家との対話で得たものについて、社員に共有していますか?私は「社内IR」と呼んでますが、「IR部門が決算発表以外に何をしているか」、実は社員は知らないことが多いです。機関投資家と対話をしている中でディスカッションやアドバイスをもらっていることをきちんと社内に伝えていく事によって好循環が生まれると考えています。浸透すれば、優秀な社員がIR部門に興味を持ち異動願いを出してくれたり、IR活動に必要な情報収集をする時に協力を得られやすくなります。
外国人投資家とは対話を通じて「常識や理解のギャップ」を見極める
外国人投資家の常識と会社の常識のギャップについて、改めてお話します。外国人投資家対応では、どうしても英語力は必要です。英語が得意ではない方もいると思いますが、少しずつでも良いので英語の勉強はしていただきたいと思います。
それと同時に、英語があまり得意ではない場合は、新たに担当者を入れる時には英語ができる人をチームメンバーに入れるのが良いですね。中途採用だけじゃなく、新卒で英語が出来る人を人事にお願いして回してもらうのも有効だと思います。Y社の時、私は2年に1度ぐらい新卒の方を配属させてもらっていました。新卒とは言え優秀で英語ができる人だと、1年もすると実際に機関投資家と話せるようになりますので、そのようなチーム強化方法もあると思います。英語はツールの1つではありますが、言葉だけではなくロジックの組み立て方法も違ったり、ニュアンスも違うことがあります。ですので、通訳や翻訳者が間に入るような状況であっても、英語力の強化はとても大切です。
英語ができる同僚がいるからと言って、任せきりにするのは勿体無いです。得意でない方も是非少しずつ練習して話せるようになることをお勧めします。
例えば、外国人投資家とのMTGの冒頭で会社の説明を5分くらいで行うことを求められることがあります。5分間で会社の紹介を出来るよう、事前に日本語でまとめ英語に翻訳し、ネイティブチェックを受けた上で暗記して話せるようにしましょう。5分であっても英語で直接説明することで時間削減になりますし、相手との距離も縮まります。また、相手が話す言葉のいくつかが拾えるようにニュアンスを理解することができるようになります。何事も小さな一歩から。まずは冒頭説明が出来るように試してみませんか?最も外国人投資家は途中で話を遮ったり、自分の話したいことを話し始めたりして大人しく聴いてくれないことも多くあります。そんな洗礼に遭うのも外国人投資家との対話だと思って楽しみましょう。
そして、英語での直接対話、または通訳翻訳を介した対話を通じて、ギャップの有無を見極めることが重要です。見極めることができたら、事前に何らかの形でその説明ができるように補足資料作成すると更に良いです。D社では、正社員や契約社員、派遣社員、アルバイト、パートといった、日本の雇用形態について外国人投資家の理解が充分ではなかったことが分かったので、メンバーと協力してそれぞれの契約内容や市場規模の一覧を作りました。ある株主にお見せしたところ、「実はわかっていなかったので大変勉強になりました。ありがとう」という嬉しいお言葉をいただきました。ギャップをそのままにするのではなく、どこかできちんと理解し合える取り組みをすると良いと思います。
フェアディスクロージャー遵守を徹底的に貫く
フェアディスクロージャーについてお話します。「空売りされないためにはどうすれば良いでしょう?」と時々訊かれます。そこで確認したいのは、「四半期中に何度も同じ機関投資家から面談を依頼されていませんか?」、もしくは「四半期末に面談依頼が殺到していませんか?」、はたまた「面談中に足元の状況をいつも訊かれていませんか?」、ということです。
例えば、足元の状況を尋ねられた時に、「現在あまり芳しくない」と回答すると、「株価にまだ織り込まれていなくて、決算発表の後で織り込まれると株価が下がるだろう」、と推測されて空売りされてしまいます。一方で、「結構いい状況である」と回答すると、「まだ株価に織り込まれてないのでいずれ株価が上昇するだろうから、今買っておいて発表後に売ろう」という力が働きます。短期的な目線の投資家に足元の状況を教えていると株価のボラティリティが増しますし、中長期目線の投資家は持ちづらくなります。なぜならば、四半期中に会社の「足元について」のコメントが変わってしまうと、何度も確認しなければならないからです。私は「フェアディスクロージャーはきちんと守って、足元の状況については伝えない」ということを今まで意識してきました。実際に足元の状況を聞かれているのに回答しないのは相手に悪い気がするかもしれません。
私がどうしていたかと言うと、「当社ではフェアディスクロージャーを遵守しています足元の状況については申し上げられません。この間の決算発表時点の状況についてお伝えしますね」と伝えていました。足元の業績や見通しとの差異について尋ねられた際には、「見通しと実績において皆様にお伝えしなければならないような大きなキャップは生じておりません。皆様にお伝えしなければならないようなギャップが生じたときには公式にお知らせします。今のところそのような状況にはなっておりません。」と明確に伝えていました。
相手もプロです。それで怒られることや関係が崩れたことは一度もなく、「ここの会社はフェアディスクロージャーを遵守していて教えてくれないのだな。それは自分だけに対してではなく、みんなに対しても同じなのだな。」と理解し納得します。
この対応を曲げずに実施することで、半年もすればその姿勢が浸透し、足元の状況を聞かれることが少なくなります。
第2回では、機関投資家や株主と対話をする際の事前準備やその活用方法について事例も盛り込みながらお話いただきました。投資家について事前に調べる努力や一貫した対応、投資家からのアドバイスをどのように扱うかによって、信頼関係に左右されることを教えてくれました。
次回は、ESG、CSR、SDGsについて実際に社内で浸透させた方法とそこからの戦略についてお伝えします。
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