「はじめてのコーポレート・ガバナンスコードとESG対応」セミナーレポート Vol.1 株式会社経営のおさらい編

2021年12月16日に、「はじめてのコーポレート・ガバナンスコードとESG対応」をテーマにセミナーを開催しました。
2021年はコーポレート・ガバナンスコードの改訂、2022年は東証の市場再編と大きな変化が続きます。
今回は、元楽天IR部長で『楽天IR戦記』著者の市川 祐子氏に、「コーポレート・ガバナンスは何のため行うのか?」、「機関投資家が求めるESGとはどのようなものか?」、「ESGはいつから取り組むのが良いのか?」といった内容をお話しいただきました。当日の参加者より「基礎的なお話から始まり、理解が進みました。」などの前向きな感想が多く寄せられました。
第1回目は株式会社経営のおさらいをお送りします。

会社経営とは航海のようなものです。
株式会社の起源は、大航海時代のオランダ東インド会社が始まりであると言われています。当時、危険な航海に向けて出資を募りますが、オランダの東インド会社は他の国とは異なり複数の航海に対して出資を募るようにしていました。その分け前をみんなでシェアするだけでなく、その権利も株として流通させたそうです。その企業経営を船の航海に例えると、事業活動が航海のようなもので航海をするにはお金が必要です。売上が先に上がればいいですが、そうでなければ株主から出資を受ける、銀行からお金を借りる、などして事業計画や事業活動に充て、残ったお金を次の投資に充てます。

ただ配当の義務はなく、借入のように返済される約束もなく、株主は船の帰りを期待するしかありません。その船に乗っていない株主もいるということを意識してください。もし社長やオーナーが全ての権利(配当や議決権)を1人で保有しているのであれば、1回の航海で得た利益を分配せず次の航海にとっておくこともできるわけです。しかし、外部株主ができると、例えるならば”陸で待っている株主”が発生することになります。”陸で待っている株主”というのは、船に乗らずとも「航海が何回かうまくいけば、いつか配当がもらえる、株価が上がるのではないか。」ということを待っている人たちを指し、株の保有を通じて仮想的に同じ船に乗っている、と言えます。この外部株主ですが、上場企業の場合、機関投資家が該当します。機関投資家は年金や投信など一般の人たちのお金を預かっています。もちろんその中には皆さんの公的年金や企業年金も入ります。そのお金をまとめて預かり投資をしてくれているので、上場企業になるということは、一般の人たちのお金が使われている責任を持つことになり、そのためのガバナンス、つまり規律が課せられるということをよく理解しておいていただきたいと思います。

次にコーポレートガバナンスコードの歴史についてお話ししたいと思います。
私の自己紹介の際に参画したと申し上げた企業報告ラボ(経済産業省)とは、2012年に始まり、それが後の「伊藤レポート」につながりました。企業と投資家の間にはギャップがあり、日本企業の課題は稼ぐ力だと言われたのです。「ROE8%」が目安とされたため、2015年のコーポレートガバナンスコードに「ROE8%資本コストを意識しなさい」という話になったわけです。しかしこれは全て持続的な成長と中長期的な企業価値の仕組みのためであって、決して短期にROEを上げる、ということではありません。中長期の企業価値向上を意図したコーポレートガバナンスコードになっています。その後の第二弾、伊藤レポート2.0では、さらに価値を上げるためには中長期に無形資産、特に人材や知的財産権といったものに、技術も含めて戦略的な投資をしなければならない、ということが言われていました。その様な経緯があり、コーポレートガバナンスコードはその後2回改訂がなされました。まず1回目は、無形資産投資や事業ポートフォリオの見直しが日本企業ではできていないので、それを取締役会が行う内容が入りました。、場合によっては役員の報酬も減額されるようになりました。そして2回目は、今年改訂されました。世の中の変化として、気候変動と人権、人的投資は、もはや人類共通の課題という認識になってきたので、持続可能性の開示の強化ということが言われるようになりました。そして、プライム市場はさらにグローバルな対応をしなければならず、より高い水準のガバナンスが要求されるようになった、というのは皆さんご存知のとおりです。今までの議論の根底にある不満というのは、まず日本企業のPBRの低さ、PBR1未満が多いということです。

元を辿るとROEが低く、そしてそのリスクを取らない日本企業には攻めのガバナンスがないというのは、実は最初の伊藤レポートから言われています。ガバナンスは守りと思っている人が多いと思いますが、それだけではなく、繰り返し議論で言われていることは、攻めのガバナンスが日本には足りないということです。株主の懸念を汲んでいないのは、そもそも取締役のメンバーに問題があるのではないか、企業と投資家の対話の不足が問題ではないか、ということがあり改訂が進んできています。つまりコーポレートガバナンスコードとは、長期の投資家が考える、「株主のために長く稼ぎ続ける仕組み」であると覚えてください。決して皆さんを縛るだけのものではないということです。

第1回ではパブリックカンパニーとしての株式会社経営のおさらいをお送りしました。第2回ではコーポレートガバナンスの基本5原則を参照しながら一つ一つを解説していきます。

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